塾屋の授業技術(高校数学メイン)

塾で20年以上働いた塾屋が、高校数学メインにつぶやきます。

No.010 黒板授業こそ至高

皆さん、こんにちは。塾屋です。

今回は「黒板授業こそ至高」です。タブレットだのPCだのスマホを利用しての動画学習がブームですが、あれ、見るの疲れませんか? あと、黒板授業は「黒板」「ノート」「教科書」の3ウィンドウが無理なく同時に見ることができ、情報量が尋常じゃないんです。

自分の出身高校では、教室の前と後ろにそれぞれ上下できる黒板があり、黒板が都合6面あったんですよ。で、数学の解説授業のときには生徒5名ほどを一斉に指名し、書き終わった生徒から解説させ、それを教師が添削する、という授業が行われていました。これが昭和の県立高校(しかも学区三番手)で行われていた授業です。百歩譲って、理科や社会ではPCは有用だと思いますが、数学は手を動かしてナンボでは?

あと実際、かなりできる生徒でも「映像授業は寝てしまいます」という声が多いです。動画で自習できる生徒というのは、相当に限られています。自分の感覚では、医学部東大・東工大・一橋レベルを目指す高1・高2生、MARCH以上を目指す高3生が動画を活用できる限界線なのかな、と思います。

致命的なのは、動画の授業は生徒の理解度を確認してくれません。まあ、とはいっても「これ分かるよね?」と「Yes と はい の二択」の確認しかしない教師なら、動画のほうがましなんですけどね。

このあたりの認識は、近いうちに逆転すると見ています。実際、動画を売りにしている予備校でも、最上位クラスはライブ授業だったりしますから。ね、林先生?

ただ、教師向けの研修教材としての動画は、それなりには有用と考えています。分厚い指導書よりも、動画のほうが速いのでは? 書面では、どう板書して、どう生徒に指名するのか、というニュアンスは伝えにくいですからね。

一つの可能性として、教科書会社は、動画マニュアル込みで教科書を販売してはどうかと思います。教師の行き帰りに、スマホを見れば授業準備の大方がすむようにするわけです。そうすると、動画マニュアルが優秀な教科書ほど採用されやすくなり、また動画マニュアルを作成する中で教科書の不具合を修正しやすくなると思うんですけどね。

No.009 速ければいいというものではない!

皆さん、こんにちは。塾屋です。

今回は「速ければいいというものではない」についてです。生徒に学校で何をやっているかを聞くと、「授業が速くて何言っているかわからない」という答えがよく帰ってきます。これは、いくつかの理由が考えられます。

①根本的に授業技術がつたない。
②すべての問題を扱おうとしている。
③「演習を繰り返すことが重要なので、導入は速くやるに越したことはない」と勘違いしている。

ここで問題にしたいのは③です。現在蔓延している誤解は、「理解がつたなくても、繰り返せばできるようになるし、理解も深まる」というものです。これはある意味で正しいんですが、それでも程度問題で、さっぱり理解できていない状態で繰り返しても、それは暗記でしかありません。一昔前「数学は暗記だ」という本が流行りましたが、あれはちゃんと読むと「理解してから繰り返そう」という当たり前のことしか書いていません。そもそも、受験勉強のノウハウを語る人は基本的に頭がいいので、まさか「理解せずに繰り返している」人がいることが理解できないんですよ。

まず、ちゃんと導入をすることが最優先です。その上で応用をカットしても、あとで取り返せます。逆は成り立ちません。しっかりとわからせることです。

あと、ここまで書いて思ったのが、教科書の傍用問題集、全部解説動画があると授業戦略が変わるかもしれませんね。だって、あの解説、普通の学習者は理解できませんからね。

No.008 アクティブ・ラーニングって、当たり前でしょ?

皆さん、こんにちは。塾屋です。

今回は「アクティブ・ラーニング」についてです。「学修者が能動的に学習に取り組む学習法」とのことですが、これって当たり前のことじゃありませんか? 特に数学の授業は、「アクティブ・ラーニング」でないと意味ないと思うんですよ。

と言っても、準備が莫大にかかるのであれば、あまり意味がありません。プリント・スライドを使わず、黒板・教科書・ノートだけでいかにそれを実現させるかが腕の見せ所です。ただ式変形を写すのではなく、式変形を生徒に指名するだけでも違いますし、式変形を「続きをやってごらん」と指示してから、時間差で式を板書すればそれだけでアクティブになります。また、ベクトルの問題文から図を起こすときも、多くの場合は生徒に「図を書いてごらん」とできますよね。うまく例題解説と演習をミックスさせることができると、授業効果は高まります。

しょせん、映像授業は一方通行。「アクティブ・ラーニング」である黒板授業が、負けるはずはないんです。

No.007 物理と数学の連携について

皆さん、こんにちは。塾屋です。

今回は「物理と数学の連携について」です。ご存じのとおり、物理の中ではベクトル・三角比・二次関数といった数学の知識を使うのですが、この物理と数学の連携が取れていない高校が結構あるんです。

例えば物理基礎を1年で扱うのであれば、数Ⅰは三角比から入っても問題ないんですよ。授業5回も使えば、三角比の基礎は導入できるです。ところが、ほとんどの高校で物理科の教師と数学科の教師が仲が悪いようでww、物理で使う数学は自前調達しているところが多いんです。ですが、物理基礎の時間数が少ないために、導入はいい加減に行われてしまうケースが多々あります。

物理基礎を2年で扱う場合でも、数Bを数列→ベクトルの順に学習する学校が依然あります。

ぜひ、数学教師は最低でも物理教師とはコミュニケーションしましょう。

No.006 定数と変数の区別 定点通過について

皆さん、こんにちは。塾屋です。

今回は「定数と変数の区別 定点通過について」です。定数と変数の意識は、難関大を攻略するときに大きな問題として立ちはだかってきます。

例えば「直線(2a-3)x+(a-2)y-4a+6=0は、aの値に関係なく定点を通る。その定点の座標を求めよ。」という問題があります。この問題は、かなりできる生徒でも「やり方はわかってはいるが、理屈はよくわかっていない」状態が関の山です。この問題の本質的な難しさ、理解しにくさはどこにあるかというと、「定数と変数の逆転現象」です。つまり、直線の方程式にとってはxとyが変数で、aが定数です。ところが

(2x+y-4)a+(-3x-2y+6)=0 ・・・①

ではaの恒等式と見ており、xとyは定数に、aは変数に変わります。誤解を恐れず言えば、①の式は直線の方程式としては見ていない、ということなんです。これをきっちりと伝えるには、「求める定点を(X,Y)とする」としてちゃんと定点の座標を大文字で表して定数であることを伝えるのがいいでしょう。そうすると、①の式は

(2X+Y-4)a+(-3X-2Y+6)=0 ・・・②

となり、①に比べてXとYが定数であることが意識しやすくなりますね。

高校数学と言えども、このように本質的に難しい教科書の例題は存在します。このあたりをしっかり授業するには、同じ職場内での情報交換が不可欠だと思います。上に書いたようなことに、初年度の教師が気を配るのはほぼ不可能でしょうからね。

蛇足ですが、「直線 y=ax-a^2 がある。aがすべての実数を動くとき、この直線の通過しうる領域を図示せよ」も全く同じで、解答のイントロは「直線 y=ax-a^2 が点(X,Y)を通るとすると」からスタートするといいでしょう。

No.005 教科書を疑え その1 円順列

皆さん、こんにちは。塾屋です。

今回は「教科書を疑え その1 円順列」です。

そもそも、教科書は実践者が書いたものではありませんから、授業の実践においては現場で修正していくしかありません。授業の実践は、教壇に立ったものでないと絶対にわからないんです。

で、円順列です。現場では「(n-1)! の公式、微妙だよね」と感じています。単純な問題ならいざ知らず、複雑な問題になればなるほど「1つを固定でいいじゃん!」となるわけです。自分の周りでは、(n-1)! は誰も教えてません。じゃあ、なぜ(n-1)! の公式を載せるのでしょうか。 

公式って、教える側も教わる側も安心するんですよね。これ使えば大丈夫って。でも、場合の数って、そういう単元じゃないんですよ。安心を与えても、応用問題では全く役に立たないんです。

あと恐ろしいのが、教える側が原理を説明するのをサボって「(n-1)! を使えばいいから」って言っちゃうパターンです。こんなことやっていたら、絶対に生徒は伸びません。

つまり、(n-1)! の公式は、できる教師にとっては必要はなく、力不足の教師がその場しのぎで使うだけなので、教科書に載せる意味がないんです。

昔から言われていることですが、「教科書を教えるのではない。教科書で教えるのだ」ということです。あくまで教科書は道具ですよ。